提案書の金額が原因で失注するとき、原因は金額の高さそのものより、金額を出す順番と見せ方にあることが多くあります。顧客の課題や、解決したときに得られるものを確かめ合う前に金額だけが届くと、顧客は金額を「手元の予算」や「他社の見積」と比べるしかなくなります。金額を出す前に、①顧客の課題と、それを放置した場合の損失、②決め方と予算の考え方、③提案の範囲、の 3 つを確かめておき、提案書の中では、課題、解決の方法、得られる効果を示した後に金額を置き、2〜3 の案を並べて顧客が選べるようにします。
金額で断られる構造
金額だけが先に届く
見積書だけをメールで送る、会社の紹介資料の最後に料金表を付けて最初に渡す、といった進め方では、顧客は提案の中身を知る前に金額を見ます。この時点で顧客が比べられるのは、手元にある予算か、ほかの会社の見積しかありません。どんな課題をどこまで解決するのかが伝わっていなければ、金額が高いか安いかは、数字の大小でしか判断されません。
何と比べられているかを知らない
顧客は、提案の金額を必ず何かと比べています。他社の見積、自社で対応した場合の人件費、何もしなかった場合の損失、昨年の同じ費目の予算などです。営業の担当者が何と比べられているかを知らないまま金額を出すと、顧客の比べ方に合わない説明しかできません。比べ方を確かめておけば、「自社で対応する場合と比べると」のように、顧客の比べ方に沿って金額を説明できます。
1 案しか無い
提案が 1 案だけだと、顧客の判断は「これをやるか、やらないか」になります。金額が予算を少しでも超えていれば、「今回は見送り」という答えが出やすくなります。範囲や進め方の違う案がいくつかあれば、顧客の判断は「どれにするか」に変わります。
金額を出す前に確かめること
金額を出す前に、次の 3 つを顧客と確かめておきます。
| 確かめること | 聞き方の例 | 金額の出し方への使い方 |
|---|---|---|
| 課題と、放置した場合の損失 | 「この状態が続くと、何にどのくらい影響がありますか」 | 金額を、損失の大きさと並べて説明できる |
| 決め方と予算の考え方 | 「どなたが、どんな基準で決めますか」「予算はどのように決めていますか」 | 決める人の関心に合わせて、金額の説明の重点を変えられる |
| 提案の範囲 | 「今回は、どこまでを対象に考えていますか」 | 範囲の違う案を組める |
放置した場合の損失は、顧客自身の言葉で聞き出すことが大切です。営業の側から「これだけ損をしています」と言うより、顧客が自分で「毎月このくらいの手間がかかっている」と話した数字のほうが、金額を判断するときの基準として働きます。
予算については、金額を直接聞いても答えてもらえないことがあります。その場合は、「同じような取り組みに、これまでどのくらいかけてきましたか」「予算は年度の初めに決まっていますか、それとも案件ごとですか」のように、決め方から聞くと答えてもらいやすくなります。
初回の面談で「だいたいいくらですか」と聞かれることもあります。答えないと不信感を持たれるため、幅のある目安を伝え、何によって金額が変わるのかを説明します。そのうえで、正式な金額は課題と範囲を確かめてから出すことを伝えます。
提案書の中での金額の置き場所
提案書は、次の順で組むと、金額が中身と一緒に判断されやすくなります。
- 顧客の現状と課題:面談で聞いた内容を、顧客の言葉を使ってまとめる
- 課題を放置した場合の影響:顧客が話した手間や損失を、分かる範囲で数字にする
- 解決の方法:何を、どの順で進めるか
- 得られる効果:課題がどう変わるか。数字にできるものは数字にする
- 案と金額:2〜3 の案と、それぞれの金額
- 進め方と体制:スケジュール、担当、顧客にお願いすること
金額は 5 番目に置きます。1〜4 で課題と効果を確かめた後に金額を見ると、顧客は金額を効果と比べて判断できます。見積書を別に付ける場合も、提案書の説明をした後に渡すか、提案書と一緒に説明できる場で渡します。見積書だけを先にメールで送ることは避けます。
効果を数字にするときは、顧客から聞いた数字を使い、出どころを明記します。営業の側で想定した数字を使う場合は、想定であることと、何を前提にしたかを書いておきます。根拠の分からない数字は、かえって提案全体の信頼を下げます。
2〜3 案の組み方
案は、範囲か進め方を変えて組みます。金額だけを変えて中身の違いが分からない案は、顧客を迷わせるだけです。
| 案 | 組み方の例 | 向いている顧客 |
|---|---|---|
| 小さく始める案 | 対象を 1 部門に絞る、最初の 3 か月だけ試す | 予算に制約がある、まず効果を確かめたい |
| 標準の案 | 面談で確かめた範囲をそのまま対象にする | 課題と範囲がはっきりしている |
| 広げる案 | 関連する業務まで対象を広げる、支援を手厚くする | 早く大きな効果を出したい |
案ごとに、何が違い、どんな顧客に向いているかを 1 行で書きます。どの案を勧めるかも、理由とあわせて示します。顧客に選択肢を示しつつ、営業の側の考えもはっきり伝えることで、顧客は判断しやすくなります。
小さく始める案は、予算の都合で見送られそうな案件を前に進めるのに役立ちます。ただし、小さく始めた後に広げる道筋(最初の 3 か月でこれが確かめられたら、次はここまで広げる)を合わせて示しておかないと、小さいまま終わってしまいます。
値引きを求められたときの考え方
提案の後に値引きを求められたら、まず理由を確かめます。理由によって、取るべき対応が違うためです。
予算の上限が理由なら、金額を下げるのではなく、範囲を減らした案を示します。範囲を変えずに金額だけを下げると、最初の金額に根拠が無かったと受け取られ、次の取引でも値引きを求められるようになります。
他社との比較が理由なら、比べている他社の提案の中身を確かめます。範囲や支援の内容が違うのに金額だけで比べられているなら、違いを説明します。中身がほぼ同じで金額に差があるなら、自社が選ばれる理由を改めて考える必要があります。価格の決め方そのものを見直す考え方は、相見積もりで勝てないときの価格の決め方で扱っています。
どうしても金額を下げる場合は、支払いの時期を早める、契約の期間を長くする、事例として紹介させてもらう、といった条件と引き換えにします。値引きを繰り返すと利益が大きく削られるため、値引きは担当者の判断だけで決めず、上長の承認を通す形にしておきます。値引きが粗利に与える影響と承認の仕組みは、営業が値引きする原因と粗利の評価への移し方で説明しています。
組織として見せ方をそろえる
金額の見せ方を担当者ごとの工夫に任せていると、成果を出している担当者と、そうでない担当者の差が開いたままになります。提案書の構成、金額を出す前に確かめる項目、案の組み方の目安は、チームの型としてそろえておきます。
型をそろえるときは、受注した提案と失注した提案を並べて、金額を出した時点で何が確かめられていたかを比べると、違いが見えやすくなります。例えば、受注した提案では放置した場合の損失を顧客が自分の言葉で話していたのに、失注した提案ではそれが聞けていなかった、といった違いです。こうした違いを型に取り入れていくことで、チーム全体の提案の質が上がります。成果を出している担当者のやり方を型にする進め方は、営業の属人化を解消する方法に、失注の理由の集め方は、失注分析のやり方にまとめています。
実行時の落とし穴
金額を隠しすぎる
金額を出す順番を守ろうとするあまり、何度面談しても金額を示さないと、顧客は不信感を持ちます。目安は早めに幅で伝え、正式な金額は課題と範囲を確かめた後に出す、という分け方をします。
案を作り込みすぎる
案ごとに細かな見積を作り込むと、提案の準備に時間がかかり、顧客への回答が遅れます。最初は主な項目の金額と、案の違いが分かる程度にとどめ、顧客が案を絞ってから細かく詰めます。
効果の数字を大きく見せる
効果を大きく見せようとして根拠の弱い数字を並べると、決裁の場で質問されたときに答えられず、提案全体の信頼を失います。効果の数字は、顧客から聞いた数字か、前提をはっきり書いた想定に限ります。




