PIP(Performance Improvement Plan、業績改善計画)とは、期待される水準に届いていない社員と上司が、改善する目標、期間、会社が行う支援、確かめる日を文書で合意し、期間中に定期的に進み具合を確かめる仕組みです。成果が上がらない社員、いわゆるローパフォーマーへの対応を、上司の個人的な指導や放置に任せず、会社の手順として行うために使います。PIPの目的は、あくまで本人の改善です。退職を迫る手段として使うと、職場の信頼を損なうだけでなく、法的な紛争の原因にもなります。この記事では、PIPの計画書に書く項目と進め方の手順、注意点と、解雇に関する法律の定めを説明します。
ローパフォーマーが放置される構造
成果が期待に届かない社員への対応が遅れる会社には、共通する事情があります。
一つ目は、期待する水準が文書になっていないことです。等級や役割ごとに何ができていればよいのかが決まっていないと、上司は「物足りない」と感じても、何が足りないのかを本人に具体的に伝えられません。本人も、自分が期待に届いていないことに気づかないまま時間が過ぎます。
二つ目は、評価が甘くなっていることです。低い評価を付けると本人との関係が悪くなることを恐れて、上司が標準の段階を付け続けると、記録の上では問題のない社員になります。後になって改善を求めても、「これまでの評価では問題がなかった」と言われ、話が進みません。評価が甘くなる仕組みと直し方は人事評価のエラーの種類と対策で扱っています。
三つ目は、改善を求める手順がないことです。手順がないと、上司は自分のやり方で指導するしかなく、指導の強さや頻度が上司ごとにばらつきます。強く指導すればハラスメントを疑われ、何もしなければ周りの社員に負担が偏ります。PIPは、この三つ目の問題に対して、会社として決まった手順を用意するものです。
PIPの計画書に書く項目
| 項目 | 書く内容 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 現状 | 期待する水準と、現在の状態の差を事実で書く | 「月20件の処理が期待される業務で、直近3か月の平均が12件」 |
| 改善の目標 | 期間の終わりに達していてほしい状態 | 「期間の最後の1か月で18件以上を処理し、差し戻しを2件以内にする」 |
| 期間と確認日 | 計画の期間と、途中で確かめる日 | 「3か月。毎月末に面談で確かめる」 |
| 会社の支援 | 研修、手順書、同行、業務量の調整など | 「最初の1か月は先輩が週1回同席し、手順を確認する」 |
| 本人の行動 | 本人が取り組む具体的な行動 | 「毎日の終業時に処理件数と保留の理由を記録する」 |
| 期間の後の扱い | 達成した場合と、達しなかった場合の扱い | 「達成したら通常の評価に戻る。達しない場合は配置や役割を話し合う」 |
目標は、目標設定の書き方と例文で示した「何を・いつまでに・どの水準まで・どのように」の形で書き、期間の終わりに達したかどうかを判断できるようにします。人柄や態度ではなく、仕事の中の行動と結果で書くことが大切です。
PIPの進め方の手順
- 期待する水準と現状の差を確かめる:等級の要件や目標に照らして、何がどの程度足りないのかを事実で整理します。期中の記録がない場合は、まず一定の期間、事実を記録するところから始めます。
- 原因を本人と話し合う:成果が上がらない理由は、能力の不足だけとは限りません。仕事の割り当てが合っていない、手順を教わっていない、体調や家庭の事情がある、といった場合もあります。原因によって必要な支援が変わるため、計画を作る前に本人の話を聞きます。
- 計画書を作り、本人と合意する:上の表の項目を埋め、本人と面談で確かめます。本人の意見を聞いて直した点も記録に残します。人事担当者が同席すると、上司一人の判断ではないことが本人に伝わります。
- 期間中に定期的に確かめる:確認日ごとに面談し、目標に対する進み具合と、支援が役に立っているかを確かめます。改善が見られる点は具体的に伝えます。面談の進め方は評価面談の進め方が参考になります。
- 期間の終わりに結果を判断する:目標に達していれば通常の評価の流れに戻します。達していない場合は、期間の延長、役割や配置の変更などを本人と話し合います。
PIPを退職を迫る手段にしない
PIPを「辞めてもらうための手続き」として使うと、次のようなことが起きます。達成できないほど高い目標を設ける、支援を約束しながら実際には行わない、期間を極端に短くする、といった運用です。このような計画は、本人にとって改善の機会ではなく、周りの社員から見ても不公正な扱いに映ります。PIPを正当に運用している会社でも、この種の運用が一度あると、PIPという言葉そのものが「退職の前触れ」と受け取られるようになります。
PIPを改善の仕組みとして運用するには、目標の水準を同じ等級のほかの社員に求めている水準にそろえること、約束した支援を実際に行って記録に残すこと、期間中に改善が見られた点を正当に評価することが欠かせません。期間の終わりの判断も、上司一人ではなく人事担当者を含めて行います。
解雇に関する法律の定め
PIPの結果、配置の変更などでも解決せず、雇用の継続を検討する場面になることもあります。その場合に関係する主な法律の定めは次のとおりです。
- 解雇の権利の濫用:労働契約法 第16条は、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする」と定めています。
- 解雇の予告:労働基準法 第20条は、解雇しようとする場合は少なくとも30日前に予告するか、30日分以上の平均賃金を支払わなければならないと定めています。
- 就業規則への記載:常時10人以上の労働者を使用する事業場では、解雇の事由を含む退職に関する事項を就業規則に定めなければなりません(労働基準法 第89条第3号)。
- 解雇理由の証明:労働者が請求した場合、使用者は解雇の理由について証明書を遅滞なく交付しなければなりません(労働基準法 第22条)。
厚生労働省の「モデル就業規則」(令和7年12月版)は、解雇の事由の例として「勤務成績又は業務能率が著しく不良で、向上の見込みがなく、他の職務にも転換できない等就業に適さないとき」を挙げています。この例の中にも「向上の見込みがなく」「他の職務にも転換できない」という条件が含まれていることからも分かるように、成果が上がらないという事実だけでは足りず、改善の機会や配置の検討を経たかどうかが問われます。PIPの記録は、その経過を示す材料の一つになりますが、個別の事案でどう判断されるかは事情によって異なります。雇用の継続にかかわる判断をする前には、社会保険労務士や弁護士などの専門家、または都道府県労働局の総合労働相談コーナーなどに相談してください。
PIPを行うときの落とし穴
- 評価の記録と内容が食い違う:これまでの評価が標準のままなのに、急にPIPを始めると、本人は納得できません。評価の段階と期中の記録を、日ごろから事実に合わせておきます。
- 評価と処遇の関係が決まっていない:PIPの期間中や結果によって、昇給や賞与がどう扱われるのかが決まっていないと、本人の不安が大きくなります。評価の結果を処遇に反映させるルールは評価と報酬の連動で整理しています。
- 周りの社員への説明を欠く:PIPの内容は本人の個人的な情報です。周りの社員に経過を話すことは避け、業務量の調整が必要な場合は、理由を伏せて必要な範囲だけ伝えます。
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出典
- 労働契約法 第16条(e-Gov 法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
- 労働基準法 第20条・第22条・第89条(e-Gov 法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049
- 厚生労働省「モデル就業規則」(令和7年12月版)第53条 https://www.mhlw.go.jp/content/001620507.pdf




