ピーターの法則は、組織の中で人は、今の仕事で成果を出すと昇進し、やがて成果を出せない地位に就いたところで昇進が止まり、そこにとどまり続ける、という考え方です。教育学者のローレンス・J・ピーターが、レイモンド・ハルとの共著『ピーターの法則』(1969 年)で示しました。この考え方をそのまま当てはめると、時間がたつほど、組織の多くの地位が、その仕事に向いていない人で占められることになります。原因は、今の仕事の成果を、次の仕事の適性の証拠として使う昇進の決め方にあります。対策は、①管理職に求める行動を言葉で決める、②昇進の前に適性を確かめる機会を作る、③成果に報いる道を管理職への昇進だけにしない、④昇進した後に支え、合わなければ戻れる仕組みを作る、の 4 つです。

ピーターの法則が起きる理由

今の仕事の成果で次の仕事を決めている

多くの組織では、担当者として成果を出した人が、次の段階の役職に昇進します。しかし、担当者の仕事と管理職の仕事では、求められる行動が大きく違います。担当者は自分で成果を出すことが求められますが、管理職は他の人を通じて成果を出すことが求められます。担当者としての成果は、管理職としての適性を示す証拠にはなりません。それでも今の仕事の成果で昇進を決めていると、管理職に向いているかどうかが確かめられないまま、昇進が行われます。

昇進しか報いる道が無い

給与を大きく上げる方法が管理職への昇進しか無い組織では、成果を出した社員に報いるために、管理職に就けるしかありません。本人も、管理職に向いていないと感じていても、給与のために昇進を受け入れます。成果に報いることと、役割を決めることが、1 つの仕組みで行われていることが問題です。

昇進した後に戻れない

一度昇進させた人を元の役職に戻すことが「降格」として扱われ、本人の面目や給与に大きく影響する組織では、昇進がうまくいかなくても、誰もそれを正そうとしません。結果として、向いていない地位に人がとどまり続け、部下の育成や意思決定が滞ります。

優秀な担当者を管理職にしたときに起きること

担当者として成果を出した人が管理職になり、うまくいかないとき、よく見られるのは次のような状態です。

起きること背景
部下の仕事を自分で引き取ってしまう自分でやったほうが早く、質も高いため
部下に任せても、細かく口を出す自分のやり方と違うと落ち着かないため
部下の育成に時間を使わない育成の成果がすぐには見えず、評価もされないため
自分の担当の仕事を手放せない担当者としての成果が自分の存在価値だと感じているため

これらは本人の能力が足りないというより、担当者として成功してきたやり方を、管理職の立場でも続けていることから起きます。本人にとっては、これまで評価されてきた行動なので、変える理由が見えにくいのです。担当者としての仕事と管理職の仕事を兼ねる立場で、仕事を抱え込んでしまう構造については、中間管理職が疲弊する構造と支援体制の設計でも扱っています。

昇進の基準の作り方

昇進の基準は、今の仕事の成果ではなく、次の役職で求められる行動で書きます。管理職の基準の例を示します。

分類基準の例
目標と方針部署の目標を、担当ごとの目標に分けて説明できる
任せ方部下の力量に合わせて仕事を任せ、途中で確かめる場を持っている
育成部下の強みと伸ばす点を把握し、育成の計画を立てている
判断情報が足りない中でも、期限までに判断し、理由を説明できる
関係の調整他の部署と利害が対立したときに、落としどころを探れる

基準は、担当者の時点で既に見えている行動から判断できるように書きます。例えば、後輩の指導を任されたときの様子、チームで取り組む仕事での役割、他の部署との調整の場面での振る舞いなどです。担当者としての成果の高さではなく、こうした場面での行動を、昇進の判断の材料にします。

基準を作るときは、今うまくいっている管理職と、そうでない管理職の違いを、上の分類ごとに確かめると、自社に合った基準になります。等級ごとに求める役割と行動を定義する方法は、キャリアパスの作り方で扱っています。

昇進の前に適性を確かめる

基準を作っても、担当者の時点では管理職の行動を見る機会が少なく、判断が難しいことがあります。昇進の前に、管理職の仕事の一部を経験してもらう機会を作ります。

1 つめは、小さなチームのまとめ役を任せることです。プロジェクトのまとめ役や、新人の指導の担当など、期間を区切って人を通じて成果を出す経験をしてもらい、その様子を見ます。

2 つめは、周囲の声を聞くことです。上司の評価だけでなく、一緒に働いている同僚や後輩が、その人をどう見ているかを聞くと、上司からは見えにくい行動が分かります。周囲の声の集め方と、配置や昇格への使い方は、多面評価を配置や昇格に活かす方法で説明しています。

3 つめは、本人の意向を確かめることです。管理職になりたいのか、専門性を深めたいのかを、昇進の前に本人と話します。本人が望まない昇進は、本人にとっても組織にとってもうまくいかないことが多くあります。

成果に報いる道を分ける

ピーターの法則を防ぐうえで最も効くのは、成果に報いる道を、管理職への昇進だけにしないことです。専門性を深める道を管理職と並べて用意し、専門職としても給与や等級が上がる仕組みにすれば、管理職に向いていない人が、給与のために管理職を目指す必要が無くなります。管理職の道と専門職の道を並べる仕組みの作り方は、複線型人事制度とはで説明しています。

あわせて、役職と給与の等級を分けておくと、役職を外しても給与の等級は保たれるため、昇進がうまくいかなかったときに元の役割に戻る判断がしやすくなります。ただし、戻すときに給与を下げる場合は、就業規則の定めや本人との合意など、労働条件の変更として必要な手続きを確かめてから進めます。

昇進した後に支える

昇進は、本人にとって新しい仕事の始まりです。昇進した直後の半年ほどは、特に支えが要ります。

  • 新任の管理職の研修:管理職の役割、任せ方、部下との面談の進め方など、担当者のときには求められなかったことを学ぶ機会を作る。研修の設計の仕方は、新任管理職研修が機能する設計の手順で扱っています
  • 相談の相手:上司とは別に、経験のある管理職を相談の相手に付ける
  • 担当の仕事を減らす:担当者としての仕事を持ったまま管理職になると、担当の仕事を優先しがちになる。昇進と同時に担当の仕事を減らし、管理職の仕事に使う時間を確保する

昇進から半年ほどたったら、管理職の基準に照らして振り返りの面談を行います。うまくいっていない点があれば、支え方を変えるか、本人と話したうえで役割を見直します。見直しを早めに行えば、本人の負担も、部下への影響も小さく済みます。

実行時の落とし穴

基準を作っても使わない

基準を作っても、昇進の判断の場で結局は担当者としての成果だけが話し合われるなら、何も変わりません。昇進の会議では、基準の項目ごとに、根拠となる行動の例を示すことを決まりにします。

専門職の道を名ばかりにする

専門職の道を作っても、給与の上限が管理職より大きく低い、専門職になった人が重要な仕事を任されない、といった状態では、誰も選びません。専門職の道にも、役割の中身と、給与の上がり方をきちんと用意します。

戻すことを失敗として扱う

役割を元に戻すことを本人の失敗として扱うと、誰も戻りたいと言い出せず、会社も戻す判断をためらいます。役割の見直しは、本人の力が活きる場所を探すためのものとして説明します。