社内公募制度は、人を必要とする部署が社内に募集を出し、社員が自分の意思で応募して、選考に合格すれば異動する仕組みです。会社が異動を決める通常の人事異動と違い、社員が自分で仕事を選べるため、意欲の高い人を必要な部署に配置でき、社員にとっても自分の力を試す機会になります。一方で、導入しても応募が少ない、今の上司が引き止める、不合格になった社員が職場に戻りにくい、といった理由で、使われなくなる制度も少なくありません。導入は、①目的と対象を決める、②募集から異動までの手順を決める、③今の上司の引き止めへの対応を決める、④不合格の社員への配慮を決める、⑤運用の結果を確かめて見直す、の順に進めます。

制度が使われなくなる構造

今の上司が引き止める

成果を出している社員ほど、今の部署にとっても手放したくない人材です。応募を知った上司が引き止めたり、異動の時期を先延ばしにしたりすると、社員は制度を使っても異動できないと感じ、応募しなくなります。部署ごとの成果で上司が評価されている限り、上司が部下を手放したがらないのは自然なことです。

応募が知られることを恐れる

応募したことが今の上司や同僚に知られると、「今の仕事に不満がある」と受け取られ、職場に居づらくなるのではないかと心配する社員は多くいます。不合格になった場合はなおさらです。応募の秘密が守られると信じられなければ、社員は手を挙げません。

募集の中身が分かりにくい

募集の内容が「営業の担当者」のような簡単な書き方だと、どんな仕事で、どんな力が求められ、合格した後にどんな働き方になるのかが分かりません。社員は自分が向いているかを判断できず、応募を見送ります。

手順 1:目的と対象を決める

まず、制度を何のために入れるのかを決めます。目的によって、募集の出し方や選考の仕方が変わります。

目的制度の形の例
新しい事業や部署に意欲のある人を集める新しい事業の立ち上げのときに、期間を区切って募集する
社員のキャリアの選択肢を広げる常設の制度にし、年に数回、定期的に募集を出す
人手が足りない部署を社内の人材で補う必要になったときに、部署から募集を出す

対象となる社員の条件も決めます。入社から一定の期間が経っていること、今の部署に一定の期間在籍していることなどを条件にする会社が多くあります。条件を厳しくしすぎると応募できる人が限られ、緩くしすぎると、配属されたばかりの社員が次々と応募して、部署の仕事が回らなくなります。

手順 2:募集から異動までの手順を決める

募集から異動までの流れを決め、社員に公開します。

  1. 募集の作成:募集する部署が、仕事の内容、求める経験と力、働き方、異動の時期を書く。人事が内容を確かめてから公開する
  2. 応募:社員が人事に直接応募する。今の上司を通さない
  3. 選考:書類と面談で選考する。面談には、募集する部署の責任者と人事が加わる
  4. 結果の通知:合否を本人に伝える。合格の場合は、人事から今の上司に伝え、異動の時期を調整する
  5. 異動:決めた時期に異動する。異動の後の一定の期間、人事が本人と面談して状況を確かめる

募集の中身は、社員が自分に向いているかを判断できるように具体的に書きます。担当する仕事、1 日や 1 週間の仕事の流れ、今のメンバーの構成、求める経験と、入った後に学べばよいことを分けて書きます。仕事と求める力を言葉にする方法は、キャリアパスの作り方やスキルマップの作り方で扱っている職務の定義や技能の項目が、そのまま使えます。

応募の窓口を人事にし、今の上司を通さないことが大切です。上司の承認を応募の条件にすると、上司が承認しない限り応募できず、制度が形だけになります。

手順 3:今の上司の引き止めへの対応を決める

合格した社員の異動を、今の上司が先延ばしにできる仕組みでは、制度は機能しません。あらかじめ、次のことを決めておきます。

  • 異動の時期の上限:合格から異動までの期間の上限を決める(例:3 か月以内)。引き継ぎのための調整はできるが、それを超える延期はできないようにする
  • 引き継ぎの支援:抜けた社員の穴を埋めるため、人事が今の部署の補充を優先して検討する
  • 上司の評価:部下を他の部署に送り出したことを、上司の評価で不利に扱わない。むしろ、他の部署で活躍する人を育てたことを評価する

特に上司の評価は重要です。部下が異動すると部署の成果が下がり、その分だけ上司の評価も下がるのであれば、上司は引き止めようとします。部下を育てて送り出すことを、管理職の役割の 1 つとして評価に入れます。管理職の評価に育成をどう入れるかは、プレイングマネージャーとはでも扱っています。

手順 4:不合格の社員への配慮を決める

不合格になった社員が、今の職場に戻りにくくならないようにすることは、制度を続けるうえで欠かせません。

1 つめは、応募と結果の秘密を守ることです。今の上司には、合格した場合にだけ伝え、不合格の場合は伝えないのが基本です。選考に関わった人にも、応募者の名前を外に出さないことを徹底します。

2 つめは、不合格の理由を本人に伝えることです。どんな経験や力が足りなかったのかを伝えると、本人は次にどんな準備をすればよいかが分かります。人事が面談の場を設け、今後のキャリアについて一緒に考える機会にすると、不合格が意欲の低下につながりにくくなります。

3 つめは、応募したことで不利に扱わないことを、制度の決まりとして明記することです。応募の事実を評価や配置で不利に扱わないことを、社員に公開しておきます。

手順 5:運用の結果を確かめて見直す

制度を入れたら、年に 1 回は運用の結果を確かめます。

確かめること見る数字や情報
使われているか募集の件数、応募の件数、応募した社員の部署の偏り
合う人が異動できているか合格の件数、異動の後の評価、異動の後の定着
引き止めが起きていないか合格から異動までの期間、延期の件数
社員の受け止め応募した社員・しなかった社員への聞き取り

応募が少ない場合は、応募しなかった社員に理由を聞くと、募集の中身が分かりにくいのか、応募が知られることを恐れているのか、今の仕事で手一杯なのかが分かります。異動した社員の定着が悪い場合は、募集の中身と実際の仕事に差が無かったかを確かめます。

通常の異動との組み合わせ方

社内公募制度を入れても、会社が決める通常の人事異動が無くなるわけではありません。会社の方針に沿って人を動かす必要がある場面では、通常の異動を使います。社内公募は、社員の意欲を配置に活かすための仕組みとして、通常の異動と並べて使います。

2 つを組み合わせるときは、社員が「自分から手を挙げる道」と「会社が機会を与える道」の両方があることを分かるようにしておきます。自分から手を挙げることが苦手な社員もいるため、公募だけに頼ると、手を挙げる人ばかりが機会を得ることになりかねません。通常の異動や、上司との面談の中でのキャリアの話し合いも、あわせて機会を作る手段として使います。

実行時の落とし穴

募集を出す部署が偏る

一部の部署だけが募集を出し、ほかの部署は出さないと、社員の選択肢が広がりません。新しい役割ができたときや欠員が出たときは、まず社内公募を検討することを、各部署の決まりにします。

選考の基準があいまい

選考の基準があいまいだと、「最初から決まっていたのではないか」という疑いを招きます。募集の段階で求める経験と力を書き、選考ではそれに沿って判断します。

異動した後を見ない

異動が決まったところで人事の関わりが終わると、新しい部署でつまずいた社員が孤立します。異動から半年ほどは、人事が定期的に面談し、困りごとを早めに拾います。