リスキリングとは、事業の変化に合わせて、社員が新しい仕事に必要な技能を身につけることです。社員が自分で学びたいことを選び、会社が費用などで支える自己啓発の支援とは違い、リスキリングでは、会社が「これからどの仕事が増え、どの技能が要るか」を決め、社員が学ぶ機会を業務として用意します。進め方は、①増える仕事と要る技能を決める、②対象の社員を決め、本人と話す、③学ぶ時間と手段を用意する、④学んだことを使う仕事を任せる、⑤効果を確かめて次に活かす、の 5 つです。学ぶ機会を作ることより、学んだ後にその技能を使う仕事を用意することが、成否を分けます。

自己啓発の支援だけでは足りない理由

多くの会社には、資格の取得の費用を補助する、通信教育の受講料を負担する、といった自己啓発の支援があります。これらは社員の学ぶ意欲を支えるうえで役に立ちますが、事業の変化に合わせた技能の転換には、それだけでは足りないことが多くあります。

学ぶ中身が事業とつながらない

自己啓発の支援では、何を学ぶかは社員に任されます。社員の関心と、事業がこれから必要とする技能が重なっていれば良いのですが、重ならないことも多くあります。その結果、会社は費用を出しているのに、事業に必要な技能を持つ人が増えません。

学ぶ時間が取れない

自己啓発は、多くの場合、勤務時間の外で行うことが前提になっています。仕事が忙しい社員ほど、学ぶ時間を取れません。意欲がある社員でも、家庭の事情などで時間を取れないこともあります。

学んでも使う場が無い

資格を取っても、講座を修了しても、元の仕事が変わらなければ、学んだ技能を使う機会がありません。使わない技能は身につかず、本人も学んだ意味を感じられなくなります。

手順 1:増える仕事と要る技能を決める

まず、事業の計画から、これから 2〜3 年で増える仕事と、減る仕事を洗い出します。例えば、紙と手作業の事務が減り、データの集計や仕組みの運用が増える、対面の営業が減り、オンラインでの顧客対応が増える、といった変化です。

増える仕事ごとに、要る技能を書き出します。技能は、「デジタルの力」のような大きな言葉ではなく、「表計算で月次の集計表を作れる」「顧客管理の仕組みで案件の一覧を出し、条件で絞り込める」のように、仕事の場面で何ができればよいかで書きます。技能の項目とレベルの書き方は、スキルマップの作り方で扱っています。

この手順を経営と人事だけで行うと、実際の仕事の中身から離れた技能の一覧になりがちです。増える仕事を担当する部署の責任者や、今その仕事をしている社員に加わってもらいます。

手順 2:対象の社員を決め、本人と話す

次に、誰に学んでもらうかを決めます。減る仕事を担当している社員、増える仕事に近い経験を持つ社員、本人が新しい仕事に関心を持っている社員などが候補になります。

対象を決めたら、本人と面談し、事業の変化と、なぜその社員に新しい技能を学んでほしいのかを説明します。本人が納得しないまま学ばせても、身につきにくく、意欲の低下にもつながります。本人の関心や、不安に思っていること(年齢、家庭の事情、今の仕事への愛着など)も聞き、学び方や時期を一緒に考えます。

年齢が高い社員の学び直しと再配置では、これまでの経験を新しい仕事にどう活かすかを一緒に考えることが特に大切です。進め方は、シニア人材の再配置とリスキリングの仕組みで説明しています。

手順 3:学ぶ時間と手段を用意する

会社が業務として学ぶことを求めるなら、学ぶ時間は勤務時間の中で確保するのが基本です。学ぶ時間を確保するには、その分の今の仕事を減らすか、ほかの人に振り分ける必要があります。「今の仕事を全部こなしたうえで学んでほしい」という進め方では、多くの社員が途中でつまずきます。

学ぶ手段は、技能の中身によって選びます。

手段向いている技能注意すること
社内の勉強会・先輩からの指導自社の仕組みや業務に固有の技能教える側の時間も確保する
外部の研修・講座一般的な知識や、社内に教えられる人がいない技能研修の中身が自社の仕事に合っているかを確かめる
実際の仕事の中での経験判断や応用が要る技能最初は小さな仕事から、支える人を付けて任せる

知識を学ぶ研修と、実際の仕事の中での経験を組み合わせると、身につきやすくなります。研修で学んだことを、すぐに小さな仕事で試す、という流れを作ります。

公的な助成も調べておきます。厚生労働省の人材開発支援助成金には、新しい事業の展開やデジタル化などに伴って、社員に新しい分野の技能を身につけさせる訓練を支援する「事業展開等リスキリング支援コース」があります(出典:厚生労働省「人材開発支援助成金」)。助成の対象や要件、申請の手続きは改められることがあるため、計画を立てる段階で最新の案内を確かめ、必要に応じて窓口に相談します。

手順 4:学んだことを使う仕事を任せる

学んだ技能を使う仕事は、学び始める前に決めておきます。「学び終えたら、この仕事を担当してもらう」と決まっていれば、本人は目的を持って学べ、会社も学びの成果を確かめられます。

新しい仕事は、段階的に任せます。最初は経験のある人と一緒に進め、次に本人が進めて途中で確かめ、最後に本人に任せる、という順です。新しい仕事に移った直後は、成果が出るまで時間がかかるため、評価の基準もそれに合わせて調整します。移った直後に元の仕事と同じ基準で評価すると、本人は元の仕事に戻りたくなります。

新しい仕事が別の部署にある場合は、異動の仕組みとあわせて考えます。社員が自分から手を挙げて新しい仕事に移る仕組みを作る方法は、社内公募制度とはで扱っています。

手順 5:効果を確かめて次に活かす

学びの効果は、研修を受けた人数や修了した割合だけでなく、学んだ技能を使った仕事がどれだけ増えたかで確かめます。

確かめること見る数字や情報
学びが進んだか修了した割合、技能の評価(スキルマップのレベル)の変化
仕事で使われているか新しい仕事を担当するようになった人数、その仕事の成果
本人の受け止め学んだ内容が役に立っているか、次に学びたいことは何か

学んだのに新しい仕事に移れていない人が多い場合は、学ぶ中身か、仕事の用意の仕方に問題があります。仕事で使われている技能と、使われていない技能を分けて見ると、次に何を学んでもらうべきかが分かります。

自己啓発の支援との組み合わせ方

リスキリングを始めても、自己啓発の支援をやめる必要はありません。会社が決めた技能を業務として学ぶリスキリングと、社員が自分の関心に沿って学ぶ自己啓発の支援は、役割が違います。

組み合わせるときは、自己啓発の支援の中に、事業がこれから必要とする技能に関する講座や資格を示しておくと、社員が自分で選ぶ学びと事業の方向が重なりやすくなります。自己啓発で身につけた技能を、社員が自分から申し出て新しい仕事で使えるような道も用意しておくと、学ぶ意欲がさらに高まります。

実行時の落とし穴

研修を受けさせて終わる

研修を受けさせることが目的になると、受講した人数は増えても、仕事は何も変わりません。学ぶ前に、学んだ後に任せる仕事を決めます。

対象を全員にする

全社員に同じ研修を一律に受けさせると、必要な人にも、そうでない人にも同じ時間を使わせることになります。増える仕事に関わる人から順に、必要な技能に絞って進めます。

減る仕事の社員を置き去りにする

減る仕事を担当している社員に説明が無いまま、新しい仕事に必要な人を外から採用すると、社内に不安が広がります。事業の変化と、社員一人ひとりにどんな道があるのかを、早めに伝えます。