営業の目標設定は、売上の目標を「受注の件数 × 平均の単価」に分け、さらに受注から逆算して、提案の数、商談の数、見込み客の数のような、担当者が自分で動かせる行動の目標まで分解して決めます。売上の目標だけを掲げても、それは顧客が決める結果の数字なので、担当者は日々何をすればよいかが分かりません。分解の手順は、①売上の目標を件数と単価に分ける、②過去の数字から段階ごとの割合を出す、③受注の件数から逆算して行動の目標を出す、④担当者ごとに割り振る、⑤週と月で進み具合を見て手を打つ、の 5 つです。この記事では、それぞれの進め方と、目標の管理が精神論になってしまう原因を説明します。
目標の管理が精神論になる構造
結果の数字しか持っていない
売上の目標だけを持っている組織では、月末に数字が足りないと分かっても、その時点で打てる手はほとんど残っていません。どこで足りなくなったのかが分からないため、会議では「もっと動け」「気合いを入れろ」という言葉しか出てきません。担当者は何を増やせばよいのか分からないまま、月末に値引きや無理な押し込みに頼ることになります。値引きが利益に与える影響は、営業が値引きする原因と粗利の評価への移し方で扱っています。
目標の根拠が説明されていない
「前年の 110%」のように、根拠を説明しないまま目標を配ると、担当者は目標を自分のものとして受け止めません。達成できるかどうかの見通しが持てない目標は、最初から諦められるか、数字を合わせるための無理な行動を生みます。目標の数字そのものより、なぜその数字なのか、何をすれば届くのかを示せるかどうかが、受け止め方を大きく左右します。
担当者の差を見ていない
全員に同じ行動の量を求めると、成果を出している担当者は余計な作業に時間を取られ、苦手な段階がある担当者は、量を増やしても成果が上がりません。担当者ごとに、どの段階で案件が止まっているのかを見ないまま目標だけを配ると、目標の管理は「数を数えて叱る」ものになってしまいます。
手順 1:売上の目標を件数と単価に分ける
まず、期の売上の目標を、受注の件数と 1 件あたりの平均の単価に分けます。
- 売上の目標 = 受注の件数 × 平均の単価
新しい顧客と既存の顧客では、単価も受注までの進め方も違うため、分けて計算します。既存の顧客からの売上の見込み(継続の契約や定期の注文)を先に差し引き、残りを新しい受注で埋める、という順で考えると、無理のない目標になります。
単価は、過去 1 年ほどの受注の平均を使います。大きな案件が 1 件だけ混じっていると平均が引き上げられるため、その案件を除いた平均も見ておきます。単価を上げる計画があるなら、それは件数とは別の打ち手として、何をすれば単価が上がるのか(提案の範囲を広げる、上位の商品を勧める など)まで書き出します。
手順 2:過去の数字から段階ごとの割合を出す
次に、見込み客から受注までの段階ごとに、次の段階に進んだ割合を過去の数字から出します。段階の分け方と記録の仕方は、営業プロセスの可視化で説明しています。
| 段階 | 過去の件数(例) | 次の段階に進んだ割合(例) |
|---|---|---|
| 見込み客 | 400 件 | 30%が初回の面談へ |
| 初回の面談 | 120 件 | 50%が提案へ |
| 提案 | 60 件 | 60%が見積へ |
| 見積 | 36 件 | 50%が受注へ |
| 受注 | 18 件 | ― |
(数字は説明のための仮の値です)
割合は、担当者ごとにも出しておきます。チーム全体の割合と比べて大きく低い段階がある担当者には、その段階のやり方を一緒に見直すことが、行動の量を増やすことより効きます。過去の記録が無い場合は、直近 3 か月の案件を振り返って、段階ごとの件数を数えるところから始めます。完全な数字でなくても、おおよその割合が分かれば目標の分解には使えます。
手順 3:受注の件数から行動の目標を逆算する
受注の件数の目標が決まったら、段階ごとの割合で割り戻して、それぞれの段階で必要な件数を出します。
上の例で、ある月の新しい受注の目標が 6 件だとすると、次のようになります。
| 段階 | 計算 | 必要な件数 |
|---|---|---|
| 受注 | 目標 | 6 件 |
| 見積 | 6 ÷ 50% | 12 件 |
| 提案 | 12 ÷ 60% | 20 件 |
| 初回の面談 | 20 ÷ 50% | 40 件 |
| 見込み客 | 40 ÷ 30% | 約 134 件 |
(数字は説明のための仮の値です)
ここで大切なのは、段階ごとにかかる日数も考えることです。見込み客との最初の接点から受注までに平均 2 か月かかる商材なら、今月の受注の目標を支えるのは 2 か月前に始めた商談です。今月の見込み客と面談の目標は、今月の受注ではなく、2 か月後の受注のためのものだと説明しておくと、担当者の納得を得やすくなります。
逆算の結果、必要な見込み客の数がチームの手に余るほど大きくなるなら、それは行動の量で埋めるべき問題ではありません。割合の低い段階を直すか、見込み客を集める方法そのものを見直すかを、目標を配る前に決めます。見込み客の集め方と質のそろえ方は、MQL と SQL の違いと定義の決め方が参考になります。
手順 4:担当者ごとに割り振る
チームの目標を担当者に割り振るときは、次の順で考えます。
- 担当する顧客と地域を確かめる:既存の顧客の多い担当者は、新しい受注の目標を少なくし、既存の顧客からの売上の目標を多くする
- 担当者ごとの割合を使う:面談から提案に進む割合が高い担当者と低い担当者では、同じ受注の件数に必要な面談の数が違う。割合の低い担当者には、面談の数を増やすより、割合を上げる支援を目標に入れる
- 本人と話して決める:割り振りの案を示し、本人の見通しを聞いてから決める。数字を一方的に配るより、本人が「この行動なら届く」と言える目標のほうが守られる
新人や異動したばかりの担当者には、最初の数か月は受注の件数ではなく、面談や提案の数と、その質を目標にします。成果を出している担当者のやり方を型にして共有する方法は、営業の属人化を解消する方法にまとめています。
手順 5:週と月で進み具合を見て手を打つ
目標は、配った後の見方で効き目が決まります。週に 1 回は行動の数(面談・提案・見積の件数)を、月に 1 回は段階ごとの割合と、受注の着地の見込みを確かめます。
週の確認では、行動の数が目標に対して足りているかだけを短く見ます。足りない担当者には、理由(見込み客が足りない、ほかの仕事に時間を取られている など)を聞き、その週のうちに手を打ちます。月の確認では、割合が想定と違っていないかを見ます。例えば、提案から見積に進む割合が想定の 60%を大きく下回っているなら、提案の中身か、提案する相手の選び方に問題がある可能性があります。この場合は、提案の数を増やす前に、失注した提案の理由を確かめます。失注の理由の集め方は、失注分析のやり方で扱っています。
受注の着地の見込みは、見積の段階にある案件の金額と、それぞれの受注の確度から出します。着地の見込みが目標に届かないと月の半ばで分かれば、翌月以降の案件を前倒しできるか、既存の顧客に追加の提案ができるかを検討する時間が残ります。着地の見込みの出し方は、ヨミ管理のやり方で説明しています。
目標と評価のつなげ方
目標をどう評価につなげるかも、目標の管理の成否を分けます。売上の達成率だけで評価すると、担当者は目標を低く抑えたがり、翌期に回せる受注を今期に入れないといった調整も起きます。逆に、行動の数だけで評価すると、数はこなしても受注につながらない動きが増えます。
現実的なのは、売上の達成を主な評価にしながら、行動の目標と段階ごとの割合の改善を、育成や支援の材料として使う形です。行動の目標は「評価で罰するための数字」ではなく、「どこで支援が要るかを見つけるための数字」として扱うと、担当者は数字を正直に記録するようになります。記録が正直であれば、マネージャーは早めに手を打てます。個人の数字だけでなくチームで成果を出す動きを評価に入れる考え方は、営業のチーム評価の設計でも扱っています。
実行時の落とし穴
行動の目標を増やしすぎる
電話の件数、メールの件数、訪問の件数、提案の件数と、行動の目標を細かく増やすと、記録の手間が増え、担当者は本来の営業に使う時間を失います。行動の目標は、受注につながる段階の数(面談・提案・見積)の 2〜3 個に絞ります。
割合を固定したまま使い続ける
段階ごとの割合は、商品や市場、担当者の顔ぶれによって変わります。一度出した割合を何年も使い続けると、逆算した行動の目標が実態から離れていきます。少なくとも半期ごとに、直近の数字で割合を出し直します。
目標を配ったまま振り返らない
期の初めに目標を配り、期末に達成したかどうかだけを見る運用では、途中で手を打つ機会を逃します。週と月の確認を定例にし、確認のたびに「次の週に何を変えるか」を 1 つ決めて終えることで、目標は日々の行動を導く道具として働きます。




