顧客ランクは、売上の大きさだけで分けると、手間のかかる割に利益の少ない顧客に時間を使い続け、これから伸びる顧客を見落とします。分けるときは、①直近の売上か粗利で並べる(ABC 分析)、②取引の新しさと頻度を加える(RFM の考え方)、③今後の伸びしろを営業の判断で加える、の 3 つの軸を組み合わせます。ランクを付けたら、ランクごとに「誰が・どの手段で・どのくらいの頻度で」関わるかを決めて初めて、営業やサポートの時間の配分に使えるものになります。
顧客ランクが役に立たない構造
売上だけで分けている
売上の大きい顧客が、利益の大きい顧客とは限りません。値引きや個別の対応が多い顧客は、売上が大きくても粗利が小さいことがあります。売上だけでランクを付けると、そうした顧客に最も手厚い対応をすることになります。
ランクを付けて終わっている
ランクを付けても、ランクごとの対応が決まっていなければ、担当者はこれまでどおり声の大きい顧客から対応します。ランクは、時間の配分を変えるための道具です。
過去の実績しか見ていない
直近の取引が少なくても、拠点の新設や事業の拡大で取引が大きく伸びる顧客があります。過去の数字だけでは、その伸びしろが見えません。
ランクの基準の作り方
1. ABC 分析で並べる
ABC 分析は、顧客を売上(または粗利)の大きい順に並べ、累計の割合で区切る方法です。区切りの割合は目的に合わせて決めますが、次のような分け方がよく使われます。
| ランク | 区切りの例 | 特徴 |
|---|---|---|
| A | 累計で上位 70%までの顧客 | 少ない顧客数で大きな割合を占める |
| B | 累計で 70〜90%の顧客 | 中くらいの取引 |
| C | 残りの顧客 | 顧客数は多いが、1 社あたりは小さい |
並べる数字は、可能なら売上ではなく粗利を使います。値引きや原価の差が大きい商売では、売上と粗利で順位が大きく入れ替わります。
2. 取引の新しさと頻度を加える
RFM は、最後の取引からの期間(Recency)、取引の頻度(Frequency)、取引の金額(Monetary)の 3 つで顧客を分ける考え方です。ABC 分析は金額だけを見るため、ここに新しさと頻度を加えると、「以前は大きかったが最近は取引が無い顧客」を見分けられます。
| 状態 | 金額 | 最後の取引 | 対応の方向 |
|---|---|---|---|
| 主要 | 大 | 最近 | 関係を深め、追加の提案をする |
| 離れかけ | 大 | 長く無い | 早めに状況を確かめる |
| 伸びかけ | 小〜中 | 最近・頻度が増えている | 提案の機会を探る |
| 休眠 | 小 | 長く無い | 定期の案内で接点を保つ |
「離れかけ」は、金額だけのランクでは A のまま残り、気づいたときには取引が止まっていることがあります。
3. 伸びしろを加える
数字には表れない伸びしろは、担当の営業の判断で加えます。判断が人によってばらつかないよう、「拠点を増やす予定がある」「自社の商品のうち使っていないものがある」「決裁者と面識がある」のように、確かめられる事実で判断する項目を決めます。
表計算で進める手順
専用のツールが無くても、請求の記録があれば表計算で始められます。
- 取引の記録を集める:直近 1〜2 年の請求の記録から、顧客ごとの売上・粗利・取引の回数・最後の取引の日を 1 行にまとめる。同じ会社が別の名前で入っていないかを先に確かめる
- 粗利の大きい順に並べる:粗利の列で並べ替え、上から累計の粗利と、全体に占める累計の割合の列を足す
- A・B・C を付ける:累計の割合で区切りを入れる。区切りの割合は、A の顧客数が専任で担当できる数に収まるかを見て調整する
- 新しさの印を付ける:最後の取引から一定の期間(取引の周期の 2 倍など)がたった顧客に「離れかけ」または「休眠」の印を付ける
- 伸びしろの欄を営業が埋める:決めた判断の項目に当てはまるかを、担当の営業が顧客ごとに記入する
- 最終のランクを決める:A〜C に、離れかけと伸びしろの印を重ねて、営業の責任者が最終のランクを決める
最初から精密に作る必要はありません。粗利の順位と最後の取引の日だけでも、手厚くしすぎている顧客と、見落としている顧客はかなり見えてきます。担当の割り振りを考えるときは、1 人の営業が担当できる A の顧客の数に上限を置くと、担当者ごとの偏りを防げます。
ランクごとの対応を決める
ランクが決まったら、ランクごとの関わり方を表にします。
| ランク | 担当 | 手段 | 頻度の例 |
|---|---|---|---|
| A(主要・伸びしろ大) | 専任の営業 | 訪問・定例の打ち合わせ | 月 1 回以上 |
| B | 営業(複数社を担当) | 電話・オンラインの面談 | 四半期に 1 回 |
| C | インサイドセールス・サポート | メール・定期の案内・よくある質問 | 半年に 1 回の連絡と、問い合わせへの対応 |
| 離れかけ | 担当の営業と上長 | 訪問か電話で状況を確かめる | 見つけた時点ですぐ |
C のランクの顧客に、個別の対応の代わりに定期の案内で情報を届ける方法は、リードナーチャリングの進め方と同じ考え方で組めます。契約後の顧客をサポートの手間で分ける考え方は、カスタマーサクセスの顧客セグメンテーションで扱っています。
ランクを見直す
ランクは、半年から 1 年に 1 回付け直します。見直しのときは、次の点を確かめます。
- ランクが上がった・下がった顧客と、その理由
- 「伸びしろ大」とした顧客が、実際に伸びたか(判断の項目が当たっているか)
- ランクごとの粗利と、かけた時間の釣り合い
ランクごとの採算を顧客 1 社あたりで確かめる考え方は、ユニットエコノミクスの計算式と改善の順番も参考になります。
実行時の落とし穴
ランクを顧客に見せる
社内のランクの名前が顧客に伝わると、関係を損ねることがあります。ランクは社内の対応を決めるためのもので、案内の文書やメールには出さないようにします。
担当者の持ち替えを急ぐ
ランクが下がった顧客の担当を急に替えると、顧客は対応が変わったことに不満を持ちます。担当を替えるときは、引き継ぎの連絡を入れ、最初の数か月は前の担当者も相談に乗れる形にします。
C の顧客を放置する
手間を減らすことと、放置することは違います。C の顧客からの問い合わせには決めた時間内に返事をし、定期の案内は続けます。C の顧客の中から次の「伸びかけ」が出てくるため、接点を切らないことが大切です。




